外国政府・国際機関職員のための米国移民法

外交官や国際機関の職員としてアメリカで働く外国人は、移民弁護士でも見落としがちな特別な考慮の対象となります。

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ビザの種類

アメリカに滞在する外国政府や国際機関職員の多くは、AビザやGビザなどと総称される特別なビザを保有しており、以下のようなたくさんの異なる種類のビザから構成されています。

  • A-1(元首、政府の長、大臣、大使、領事)
  • A-2(その他の常勤の外国人外交官)
  • A-3(Aビザ保持者の家庭従業員)
  • G-1(IGO加盟政府の主要代表)
  • G-2(IGO加盟政府のその他の代表者)
  • G-3(非加盟または未承認の政府の代表者)
  • G-4(国際機関・IGOの役職員)
  • G-5(Gビザ保持者の家庭従業員)

さらに、商業的な役割に従事する外国政府や国際機関の職員の中には、二国間投資条約に基づくE-1またはE-2ビザで入国する人もいます。また、NATO条約が適用される特定の外国人職員の場合には、通常の入国手続きが免除される特別なNATO-1~7ビザで入国することができます。本記事では、わかりやすくするためにこのような方々をまとめて外交官ビザ保持者と総称しています。

外国政府または国際機関が外国人職員を任命する際には、フォームDS-2003またはフォームDS-2004を国務省に提出し、任命の通知を行わなければなりません。この手続きは、外交ビザ保持者とその親族のビザ申請も兼ねています。

外交官特権

外国人である多くの外交官や国際機関職員、およびその親族は、アメリカに滞在していても、特定の目的のために、アメリカの管轄外にいるとみなされます。この事象は、世間的に「外交官特権」として知られています。これには以下のような例があります。

  • 報酬に対してアメリカでの所得税を払う必要が無い
  • 消費税などその他の税金が免除される
  • 外交官専用の特別なナンバープレートが使用できる
  • 逮捕や捜索に関してのある程度の保護
  • 民事訴訟からの限定的な保護

一方で、外交官特権を持っている人は、通常であれば得られる米国法下の恩恵を受けることができません。例えば、通常であればアメリカで生まれた子供はアメリカ市民権を自動的に取得できますが、外交官特権を持つ人の子供は出生地による市民権取得ができません。

外交官特権は、アメリカ国内の全ての外国政府職員に適用されるわけではありません。大使館の高官は最も強力な免責特権を持っており、領事館職員、大使館の技術・管理・サービス担当者などは、それに比べて限定的な特権しか与えられません。外交官には、アメリカ政府からIDカードが発行され、その中には自分の特権レベルが詳細に記載されています。また、外交官の母国が外交特権を放棄することもあります。

市民権やグリーンカードを既に持っている外交官の場合

アメリカ市民とグリーンカード保持者は、外交ビザ無しで特定の政府機関や国際機関の職に就くことができますが、一般的に外交官特権は与えられません。アメリカ国務省は、アメリカ市民やグリーンカード保持者をハイレベルな外交官としての任命を受け付けていません。外交官資格を持つグリーンカード保持者(外国の外交官との結婚を通してなど)は通常、外交官資格に伴う外交上の権利、免除、免責権を放棄する必要があります。これは、フォームI-508という特別な書類を移民局に提出することで行われます。(フランス国籍の方は、フランスとアメリカの二国間条約により、特別なフォームI-508Fを提出する必要があります。)これを怠ると、グリーンカード保持者はアメリカ移民局によって、外交ビザにステータスが変更され、グリーンカードを失う可能性があります。

グリーンカード保持者は、グリーンカードを放棄するためのフォームI-407と、外交特権を取得することを他のアメリカの政府機関に通知するためのフォームI-566を提出することにより、外国ビザ保有者にステータスを変更し、外交特権を取得することができます。

グリーンカードの取得

外交官ビザをお持ちの方は、ほとんどの場合、移民資格変更手続き(Adjustment of Status)によってグリーンカードを取得することができます。主な例外は、A-3、G-5、NATO-7ビザを持っている個人従業員で、これらに該当する人はステータスの調整ができず、母国に戻って再度ビザを取得しなければなりません。

外交官ビザ保持者がグリーンカードへの資格変更手続きをする際には、外交官としての権利、特権、免除、免責を放棄するためにフォームI-508(フランス国籍の方の場合はフォームI-508F)を提出しなくてはなりません。また、外交官特権の対象外になったことを他の米国政府機関に通知するためにフォームI-566を提出しなければなりません。

外交官ビザ保持者のグリーンカードへの変更の方法は以下の通りです。

  • アメリカ市民との結婚など、家族ベースでの取得
  • 雇用による取得
  • ダイバーシティビザ(グリーンカード抽選プログラム)
  • 退職したG-4またはNATO-6 ビザの職員の配偶者、および現在または退職したG-4またはNATO-6 ビザの職員の子供は、一定の居住条件を満たせばグリーンカードを取得する資格があります。
  • A-1、A-2、 G-1、 G-2のステータスを持つ外交官が、自国に戻れない「やむを得ない理由」がある場合、一般的に「セクション13」と呼ばれる特別調整手続きを利用することが可能です。セクション13でのグリーンカード取得は年間に50件までしか認められていません。外交官が米国に赴任している間に母国でのクーデターや政権交代、その他の暴力的な動きがあり、外交官やその近親者が特定の脅威(安全性に関する一般的な懸念ではなく)にさらされる可能性がある場合にのみ認められています。

他の非移民資格への変更

外交ビザ保持者の中には、観光や教育などの非移民目的で、外交官としての赴任後もアメリカに留まることを決める人もいます。このような場合、一時的な訪問者のためのB-1、B-2や学生のためのF-1ビザなど、他の非移民ビザに変更するためには、移民局にフォームI-539を提出しなければなりません。また、外交官特権の対象ではなくなったことを他のアメリカ政府当局に通知するためにフォームI-566を提出しなければなりません。


著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください