アメリカにおける相続制度のキーポイントをここで紹介します。アメリカの相続制度についてご不明点、ご質問等がありましたら、当事務所にご連絡ください。
遺言書(Will)と生前信託(Living Trust)
アメリカで遺言書を書く習慣がありますが、遺言書で相続人と資産の配分方法を決めると、検認裁判(probate)が原則として必要になり、手続きには時間とコストがかかります。これを避けるため、「生前信託」という書類が場合によってより人気です。コンセプトとして、資産の所有権を他人(事実上の相続人)にすぐ譲渡し、譲渡人が生きている間に譲渡先の人が「受託者」として資産を所有し、譲渡人が使用権を有します。生前信託で資産を譲渡すれば、譲渡人が亡くなるときに資産を分配する必要がなく、所有権が受託人(事実上の相続人)に属するまま使用権だけが終了します。なお、遺言書と生前信託の要件を含む相続ルールは州法で定まるため、州によって異なります。
資産の種類によって遺言書・生前信託・検認裁判なしで相続することが可能です。特に、金融機関(銀行、証券会社等)の口座については、金融機関所定の手続きで受益者(beneficiary)を指定することができます。また、自宅等の不動産を夫婦共同名義で所有すれば、夫婦の一方がなくなると、配偶者が自動的に単独所有権を取得します。
遺産税(Estate Tax)と相続税(Inheritance Tax)
「遺産税」は亡くなった方の資産全体に適用される税金で、「相続税」は相続人への分配金に適用される税金です。
アメリカ全国に適用される連邦遺産税制度があり、一部の州に遺産税や相続税の制度もあります。連邦遺産税は11.4百万ドルの控除額があるため、遺産の価値がこの金額にならない限り適用しませんが、一部の州にはより低い金額の遺産に適用される遺産税・相続税があります。
また、アメリカの税金に加えて、相続人又は被相続人が相続の10年前以内に日本に住所を持った日本人であれば、アメリカの資産を含む世界中の資産について日本の相続税も適用します。
ご参考まで、2019年現在の控除額と最高税率を以下のとおりリストアップしました。
法域 | 種類 | 控除額 | 最高税率 |
---|---|---|---|
アメリカ全国 | 遺産税 | $11.4 MM | 40% |
コネチカット州(CT) | 遺産税 | $3.6 MM | 12% |
コロンビア特別区(DC) | 遺産税 | $5.68 MM | 16% |
ハワイ州(HI) | 遺産税 | $5.49 MM | 16% |
アイオワ州(IA) | 相続税 | なし | 15% |
イリノイ州(IL) | 遺産税 | $4 MM | 16% |
ケンタッキー州(KY) | 相続税 | 相続人の区分によって$500~全額 | 16% |
マサチューセッツ州(MA) | 遺産税 | $1 MM | 16% |
メリーランド州(MD) | 遺産税 相続税 |
$5 MM なし |
16% 10% |
メイン州(ME) | 遺産税 | $5.7 MM | 12% |
ミネソタ州(MN) | 遺産税 | $2.7 MM | 16% |
ネブラスカ州(NE) | 相続税 | $10,000 | 18% |
ニュージャージ州(NJ) | 相続税 | なし | 16% |
ニューヨーク州(NY) | 遺産税 | $5.75 MM | 16% |
オレゴン州(OR) | 遺産税 | $1 MM | 16% |
ペンシルバニア州(PA) | 相続税 | なし | 15% |
ロードアイランド州(RI) | 遺産税 | $1.56 MM | 16% |
バーモント州(VT) | 遺産税 | $2.75 MM | 16% |
ワシントン州(WA) | 遺産税 | $2.19 MM | 20% |
日本 | 相続税 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 | 55% |
各法域の遺産税・相続税のインパクトを軽減するための戦略が多く存在しますが、この分野はかなり複雑であり、いわゆる「遺産計画」(estate planning)に詳しい専門家に相談する必要があります。
著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください。