当事務所では、日本とアメリカ間の二重国籍についての質問を頻繁に受けます。この記事では、二重国籍に関するよくある質問や各国の法律について詳しく説明します。
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日本・アメリカ間の二重国籍に関する基礎知識
アメリカの法律では、国民が外国の国籍を持つことに関して特に厳しい制限はありません。しかし、日本の場合は、国民が他国の国籍を持っている場合は、複数の制約がかかる事があります。
日本国民の国籍は、各自治体での戸籍制度により管理されています。アメリカには、日本のように国民の国籍を管理する集約的なシステムは存在していません。アメリカ領地内で生まれたアメリカ国民が国籍の証明をしたい場合は、州ごとに発行される出生証明書が必要になり、アメリカ領地外で生まれたアメリカ国民の場合は、アメリカ連邦政府からの出生証明書が原則として必要になります。アメリカ領地外で生まれた場合は、パスポートをとる以前に連邦政府からの出生証明書が必要になるので、このステップは非常に重要です。
日本政府とアメリカ政府は両国の国籍状態についての情報を共有することはほとんどありませんが、稀に、日本政府が日本国民の二重国籍・多重国籍状態を発見する事があります。これが最も起こりうるのが、日本のパスポートを更新する時です。パスポートを更新する際の書類では、外国の国籍を持っているかどうか、持っている場合はいつ・どこで国籍を取得したのかを聞かれます。海外からパスポートを更新する際は、日本大使館や領事館で更新を行う事ができますが、その際には、更新者のビザや在留者カードを同時に提出しなければいけません。
アメリカ国民の場合は、たとえアメリカ国外に住んでいたとしても、収入税は課され続け、18-25歳の男性は徴兵制度に登録しなければなりません。(ベトナム戦争以来は未だに一度も徴兵は行われていません。)反対に、日本にはこのような徴兵制度は無く、海外に住んでいる日本人への課税も最低限度に限られています。
日本には「国籍」という法的概念は存在するが、「市民権」という法的概念は存在しませんが、アメリカにおける「国籍」(nationality)と「市民権」(citizenship)の法的解釈は絶妙に違いがあります。「国籍」を保持していれば誰でもアメリカに居住する権利が与えられますが、「市民権」を持っていれば投票する権利が与えられます。全てのアメリカ市民は同時に国籍を保持していますが、北マリアナ諸島やアメリカ領サモアなどで生まれたアメリカ国民には市民権は与えられません。
出生時での二重国籍
個人は、次のいずれかの条件に当てはまる場合に日本とアメリカの二重国籍を取得する事ができます。
- アメリカでの出産で、少なくとも1人の日本人の親がいる場合、又は、
- 海外で出産した場合で、1人の日本人の親と、出産前に一定期間アメリカに滞在していた1人のアメリカ市民の親がいる場合。
各市民権を取得する手順は、下記に記されているように、個人がどこで産まれたかによって異なります。
出生地: |
アメリカ |
日本・アメリカ以外の国 |
日本 |
米国籍を取得する手順 | 州ごとに発行される出生証明書がアメリカでの市民権・国籍の証明になります。 | 以下のいずれの手順。 ① 出生国のアメリカ大使館又は領事館に報告し、海外出生証明書(Certificate of Birth Abroad)とパスポートを受け取る ② アメリカ国内でパスポートを申請する ③ アメリカ市民権・移民局(USCIS)にフォームN-600を提出し、市民権証明書(Certificate of Citizenship)を受け取る |
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日本国籍を取得する手順 | 生後3ヶ月以内に両親が日本大使館又は領事館に連絡を取ること。それ以外の場合は、個人が20歳になるまでに日本での居住権を確立し、法務省に連絡し国籍を取得する事が必要になります。 | 日本の各地方自治体に通知することによって出生が戸籍に登録されます。 |
出生時に他国の国籍を取得した日本人が日本国籍を維持するためには、国籍選択の宣言を行う必要があります。この手順を怠った場合は、法務省から1ヶ月以内に警告通知が送られ、それでも国籍選択の宣言が行われない場合は、日本国籍が取り消される事があります。ただし、日本国籍を選択する宣言を行うことは、個人のアメリカ国籍が取り消されるということにはつながりません。出生によって二重国籍を取得した多くの人は、日本国籍を放棄する意志があるということを表明しない限り、両方の国籍を無期限に保つ事ができます。日本国籍を放棄することを選択した場合でも、日本での居住を確立し、法務省に申し立てをすることで、日本国籍を再取得する事ができます。
自ら選んでの二重国籍
日本人は、アメリカで帰化を申請することにより、アメリカ国籍を取得する事ができます。アメリカ国籍を取得するためには、日本人がアメリカでの永住権「グリーンカード」を取得した後、アメリカに一定期間居住し、「継続的及び物理的な居住」を証明する必要があります。ここで大事なポイントが、アメリカで帰化を申請しそれが認められると、自動的に日本国籍を失うことになるということです。日本国籍法第11条では、「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」と定められています。さらに、アメリカで帰化をするときに行われる「忠誠の誓い」にも、「以前保持したすべての外国への忠誠の放棄をすること」と定められており、帰化した上で他国の国籍を保持することはこの忠誠の誓いに違反することになります。
アメリカ国民も日本への帰化を申請し日本国籍を取得する事が可能です。このためには、請願者が一定期間継続して日本に居住し続けた事が証明されなければならず、さらに法務省に申請を提出する必要があります。ここで重要なのが、帰化請願者は日本国以外の国籍を放棄しなければならない、ということです。米国法では、18歳以上のアメリカ国民が自発的に米国籍を放棄する意図を表明した場合は、アメリカ国籍が取り消されますが、実務的には、アメリカ政府に定められた書類を提出しない限り、アメリカ国籍が剥奪されるということは原則としてありません。したがって、アメリカの市民権とパスポートを維持しながら日本に帰化することが事実上可能なのです。
出生時に自動的に起こるアメリカ国籍の取得
出生時に自動的にアメリカ国籍を取得しなかった個人は、次のような場合にアメリカ国籍を取得する事ができます。
- 少なくとも両親の1人がアメリカ国民である場合
- 個人が18歳以下である場合
- 個人がグリーンカードを保持している場合で、かつ、
- 合法的にアメリカに滞在しており、アメリカ市民である保護者の監察下にあること
この規定は、個人がアメリカへの帰化を申請した場合、アメリカ市民が海外から子供を養子として迎えた場合や、様々な理由で個人の出生時に米国籍取得をする資格が無かった場合などの場合に適用されます。市民権の証明を発行するにはアメリカ市民権・移民局に通知する必要がありますが、この場合のアメリカ市民権取得は選択によって付与されるものではないため、この方法でアメリカ市民権を取得した日本人は、日本国籍を自動的に失うことはありません。
日本の法律による二重国籍への罰則
日本の法律に違反して二重国籍を維持しようとする個人は、日本国籍法に基づく罰則に注意する必要があります。日本政府は、個人が他の国の国籍を選択したときに、日本国籍を剥奪する事があります。これは、とりわけ、次のことを意味します。
- 既存の日本のパスポートは無効になり、新しいパスポートに更新することもできなくなる
- 日本に居住している場合は、違法滞在としてみなされる
- 子供がいる場合は、子供も日本国籍を失い、パスポートが無効になる可能性がある
- パスポート申請書、戸籍の提出書類、および日本国籍に基づくその他の政府書類の偽造情報について、日本で刑事罰に直面する可能性がある
このような危機に面している個人には、日本に帰化し、日本国籍を回復する資格が与えられますが、法的にそれを持っていないにもかかわらず、日本国籍を主張することから生じる他の潜在的な法的問題への直接解決にはなりません。
著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください。