アメリカの民事訴訟の大きな特徴の1つとして、ディスカバリー(証拠開示手続き)というものがあります。
ディスカバリーとは、文書請求、質問状、宣誓証言などを通して相手側が持っている書類や情報の開示を求めることを言います。他の国では、ディスカバリーの権利はかなり制限されており、当事者は手元にある書類や情報だけで何とかしなければならないことが多くあります。
しかし、アメリカ国外で訴訟を起こした場合であっても、米国法典のセクション1782に書かれている規定により、アメリカの連邦裁判所制度を利用して証拠開示を求めることが可能です。
セクション1782では、以下に書かれているような様々な証拠を集めるのに成功しています。
- 名誉毀損訴訟においてのソーシャルメディア利用情報
- 離婚裁判においての銀行口座の記録
- 製造物責任訴訟においての技術的文書
- 労務訴訟においての企業メールや従業員との口頭面談
基本条件
セクション1782を使って証拠開示を求めるには、4つの必要条件を満たす必要があります。
- 外国もしくは国際法廷、または利害関係者からの要請があること。要請を行う利害関係者とは、通常、外国の訴訟においての原告であることがほとんどですが、被告や、事件に利害関係のある第三者の場合もあります。外国裁判所からの委任状は必要ありません。
- 要請で求められる証拠は、証言、声明、または文書や物でなくてはなりません。
- 求められる証拠は外国または国際法廷での裁判において使用されるものに限ります。要請をするときに、裁判が進行中である必要は無く、海外で訴訟を起こす前でもセクション1782を使って証拠を入手することが可能です。
- 証拠開示を求められた個人は、申請を裁定した地方裁判所の管轄区域内に住んでいるか、管轄区内で発見されなければなりません。企業や法人を相手に訴訟を起こしている場合は、一般的にその会社の本社や所在地がこれに該当します。一部の地方裁判所では、管轄区内に支店がある場合でもディスカバリーを認めています。
当事務所は、ニューヨーク市とロングアイランドを管轄するニューヨーク南部地区と東部地区の米国地方裁判所、及びコロンビア特別区での米国地方裁判所での法資格を有しております。これにより、上記地域の個人や団体に対してセクション1782を使い証拠開示を求めることができます。また、その他の管轄区域の場合であっても、それぞれの地域の弁護士と協力して、証拠開示を求めることも可能です。
セクション1782の限度
アメリカの裁判所はセクション1782に基づいてディスカバリーを許可する義務は無く、裁量的な理由によってディスカバリーを拒否または制限することができます。ディスカバリーを認めるかどうかを決定する際、裁判所は、ディスカバリーの必要性、外国の裁判の性質、外国の法廷の性質と規則、また要求が不当な負担になるかどうかが考慮されます。
セクション1782の要請で最もよく問題になるのが、ディスカバリーが不当な負担になるかどうかという点です。裁判所は、訴訟における証拠の必要性、関係者のプライバシーの問題、また、証拠を入手してまとめるのに必要な時間とコストを考慮して、不必要な証拠の要請を拒否するのが普通です。
既定では、セクション1782を使っての証拠収取は連邦民事訴訟規則が適用されます。つまり、アメリカ国内での訴訟と同様に証拠の収集を行うことができるのです。ただし、裁判所は、外国の裁判所での慣行や規則を証拠収集に適用するように命じる権利を有しています。
セクション1782による証拠開示は、法的な特権に違反するようなことに関しては適用されません。最も一般的に行使される特権として、クライアントと弁護士との間のコミュニケーションを保護する、弁護士・依頼者間の秘匿特権が挙げられます。その他の特権としては、医師・患者間の秘匿特権、聖職者・信者間の秘匿特権、また、配偶者間の特権などがあります。