米国のH-2B短期就労ビザ

H-2Bビザは、特別なプロジェクト、新規事業、季節的な需要の変化、または1回限りのイベントで一時的な労働力を必要とする雇用主にとって便利なビザです。人材派遣や求職活動を行う前に、これらのビザの制限を正しく理解しておくことが重要です。

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H-2Bビザが利用できる職種

H-2Bビザは、一時的に必要とされる労働者にしか利用できません。一般的に、仕事の期間は10か月以内であるべきですが、特定のプロジェクトや事件などの1回限りの必要性によるものであれば、最長で3年間継続することができます。アメリカ移民局では、雇用主が長期的な労働者を一時的な労働者として間違って分類することに非常に敏感であるため、それぞれの労働者の一時的な必要性を注意深く説明し、その説明を裏付ける証拠を提出しなくてはなりません。

例えば、H-2Bビザは次のような労働者に付与されています。

  • 新しい施設の開設のために渡米する企業の管理職
  • 特定の建設プロジェクトで作業を行う技術者
  • 雇用主が末期の疾患を抱えており、それによって雇用された家政婦
  • 10代の子供が高校を卒業するまでの間に必要とされる保育士
  • 1つの映画作品のために雇われた俳優
  • シーズンごとに雇用されるプロスポーツ選手

一方で、H-2Bが却下されたのは以下のようなケースです。

  • 一時的にアメリカに赴任した外国人幹部を補佐する秘書(ニーズは一時的であったが、職種が一般的すぎてニーズに結びつかなかった)
  • ある建設プロジェクトの技術者で、その雇用主が以前に他のプロジェクトの同様の労働者に対して同様のビザを申請していた場合(それぞれの労働者は一時的に雇用されていたが、その必要性は明らかに長期的なものであった)
  • 雇用主の長期的な疾患のために雇われた家政婦(必要性が一時的ではなく、長期的であったため)
  • 小さな子供が高校を卒業するまでの間に必要とされる保育士(一時的でなく長期的なニーズであったため)

H-2Bビザは、季節的な仕事に使用することができ、特別にビーチやスキー場などの季節的な観光地にあるレストランやホテルなどのスタッフに間で最もよく使われています。(参照:レストラン従業員のための米国ビザ)このような場合、雇用主は需要の季節性を証拠書類を使って証明しなくてはなりません。

申請プロセス

H-2Bビザは、法律上、各会計年度(10月から9月まで)に開始する仕事に対して、66,000件しか発行できません。これを6ヶ月間(10月〜3月、4月〜9月)ごとに33,000枚ずつ配分します。2019-20年度と2020-21年度は、上記のビザが11月中旬に、下期のビザが2月中旬に使い切られています。したがって、冬の終わりや夏の終わりに始まる仕事のために、新たにH-2Bビザを取得することは通常不可能ですが、すでにH-2Bステータスを持っている労働者は、この期間中に、新たな一時的な仕事に携わることができます(以下参照)。

仕事に対する賃金が適正であること、H-2B労働者が既にアメリカにいる有能な労働者を追い出さないことを保証するために複雑なプロセスが必要です。

雇用主は、米国労働省からその仕事に支払われることのできる最低賃金を定めた現行賃金決定書(prevailing wage determination)を入手しなければなりません。これは業務開始時の4~9カ月前に行われます。業務開始が10月の場合は、労働省が賃金率データを更新する6月に行うのが一般的です。

雇用主は、勤務開始予定日の75~90日前に米国労働省へ臨時労働許可証の申請を行わなければなりません。また、地元の州労働局に詳細な求人広告を提出し、地元で求人広告を出さなくてはなりません。

米国労働省からの臨時労働許可証の発行を待つ間に、州の労働機関や派遣企業は、求人内容に合う候補者の紹介を雇用主に行います。雇用主は、これによって紹介された候補者を拒否することはできますが、これによってH-2Bビザの審査がより厳しくなることがあるので拒否する場合は、その理由を丁寧に文書化する必要があります。

臨時労働許可証が発行されたら、雇用主はI-129フォームをアメリカ移民局に提出しなくてはなりません。これは、雇用主が希望する労働者のための請願書です。これは臨時労働許可証の手続きにかかる時間によって変わってはきますが、通常、勤務開始予定日の2週間から4週間前に提出されます。

アメリカ移民局によって請願書が承認された後、労働者はアメリカ国外での大使館または領事館でビザを申請することもできます。仕事や労働者の実質的な審査はすでにアメリカで行われているため、通常、この方法の方が手続きが迅速に行われます。(労働者がすでにアメリカに滞在している場合は、I-129フォームを移民局に提出し、承認をもらうことによって新しい仕事を開始することができるため、新たなビザは必要ありません)

H-2B労働者の扶養配偶者と子供は、アメリカで生活するためのH-4ビザを取得することができます。H-4ビザでは、アメリカ国内での就労は認められておらず、ステータスの延長や変更は、I-539フォームを使って移民局に別途申請する必要があります。

雇用形態

H-2Bビザは、週に35時間以上のフルタイムの雇用にのみ使用可能です。また、各12週間ごと(契約期間が120日未満の場合は各6週間)のうち最低でも4分の3以上勤務時間が提供されなくてはなりません。

また、H-2B労働者には、その職種の一般賃金または最低賃金のいずれか高い方を支払わなければなりません。

H-2B労働者が契約就労前に解雇された場合は、雇用主が帰国の費用を負担しなくてはなりません。

ビザの有効期間

H-2Bビザは通常、雇用主が労働省または移民局に説明した勤務内容の期間中継続されます。H-2Bビザを持っていれば、他のH-2Bの仕事に転職することもできます。この場合、新しい雇用主は引き続きH-2Bの雇用とスポンサーシップの手続きを行う必要がありますが、従業員は新たなビザを取得する必要は無く、年間上限も適用されなくなります。

個人のH-2Bビザは、最大3年間まで延長することができます。3年が経過したあとは、少なくとも3カ月間アメリカを離れなくてはなりません。L-1、H-1、H-2A、H-3ビザで滞在した期間もこの3年間の制限にカウントされます。しかし、途中で海外に出てその滞在期間が長くなってくると、、3年間のカウントが中断され、H-2Bビザのさらなる延長が可能になります。

通常、H-2Bビザを雇用ベースのグリーンカード取得への手段として使用することは不可能です。H-2Bビザで可能な仕事は一時的なものでなくてはならない(H-2Bの仕事に基づいてグリーンカードを取得することは不可能)ことに加えて、グリーンカード申請の承認を待つ間にH-2Bビザの有効期限が切れてしまうことがほとんどです。

しかし、H-2Bビザ保持者がアメリカ市民やグリーンカード保持者と結婚し、結婚に基づいてステータスを調整することは可能です。

H-2B参加国

H-2Bビザの発行は、アメリカ移民局との協力関係において良好な実績を持つ国に限定されています。日本人に加えて、ヨーロッパ、オセアニア、中南米などの多くの国の方が対象になります。


著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください