数年ほど前、厄介な問題を抱えるある日本の企業に助けを求められた事があります。この会社は米国のIT企業との関係強化のため、シリコンバレーに1年間、日本とアメリカを行き来する従業員を置きたいと考えているところでした。彼らは地元の旅行代理店に依頼をし、ビジネス訪問者用のB-1ビザの請願をしてもらいました。残念な事に、この請願は却下されてしまい、その為この従業員はビザ免除プログラム(ESTA)を使用する資格を永久に失ってしまいました。Bビザ又はESTAでビジネス訪問者として米国を訪問するにあたって、この状態で許可される業務とそうでない業務の区別は実は明確ではありません。
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Bビザ又はESTAでビジネス訪問者として米国を訪問するにあたって、このビザで許可される業務とそうでない業務の区別は実は明確ではありません。これに関する代表的な判例が「ヒラの件」(Matter of Hira)です。これは1996年の移民審議委員会の判決で、仕立屋として働いていたインド国籍、香港在住の男性がビジネス訪問者としてBビザを認められた判例です。彼は米国で仕立ての注文を受ける、顧客の服(香港で製造された服)の寸法を測る等の目的で米国への入国許可を請願したのでした。
ヒラの件では次の原則を確定しました。
- Bビザを取得する為には、訪問者の居住地、住所、及び主要な事業所は米国外でないといけません。
- 訪問者は米国滞在中に単純労働及び技能労働をする事ができません。これは、利益の最終的な発生場所が米国外でならないといけないという事を意味します。したがって、米国内での有料サービスや商品の製造はビジネス訪問者ビザでは許されません。
- ビジネス訪問者が「ビジネスマン」又は技能者でなければいけないという事はありません。
訪問者ビザで許される活動
ビザの承認に関わる米国領事館の役人の為の「Foreign Affairs Manual」(外務マニュアル)には、ビジネス訪問者として米国で許される活動として下記がリストアップされています。
- 米国での有給雇用を伴わない商取引(海外で製造された商品の注文を受ける仕事など)
- 契約の交渉
- 取引先との相談
- 訴訟
- 科学、教育、専門、又はビジネスのコンベンション、会議、又はセミナーへの参加
- 個人の自主研究
- 米国企業の取締役会のメンバーが取締役会の会議に出席するため、または取締役会のメンバーシップに起因するその他の機能を実行する事 (ただし、「ビジネス訪問者として米国にいる間、ビジネスの管理に積極的に参加すること」は禁止されています。)
ビジネス訪問者としての滞在権は、限定された定義の範囲内ではありますが、次の様な場合にも許可されます。
- アスリート
- オフショア船、リグ労働者
- 個人従業員や家庭内労働者
- 航空機及びヨットの乗組員
- 医療事務員
- 芸術家
- 米国のスタジオでレコーディングを行う為に訪問しているミュージシャン(但し、パフォーマンス目的での訪問は異なる種類のビザが必要になります。)
現地での手作業
労働の遂行には制限がある為、技術的な手作業を行う訪問者は訪問者としての制限に違反する可能性があるので、特に注意が必要です。
例えば、アメリカ国内の建設労働者を失業に追い込む可能性があるという懸念から、建設現場を訪れるビジネス訪問者は、現場の観察、地元の労働者と話し合いをするなど、実際の建設作業には関わる意図は無いという事を説明する準備ができている必要があります。
ビジネス訪問者による機械・機器の手作業については、使っている機械又は機器が米国外を拠点とする会社により購入されて、保証期間内である限り、現地での手作業が許されます。
移民になる意図
訪問者は、米国当局により「移民になる意図」があると判断された場合、ビザまたは入国を拒否される可能性があります。これは、次の様な場合に最もよく起こります。
- 訪問者が米国で保留中のビザ請願書を所持している場合―ビザ請願書の処理には何ヶ月、移民ビザの請願の場合には何年もかかる場合もあります。請願者が移民ビザ又は非移民ビザが下りるのを待っている間に、米国を訪問する事は許されていますが、訪問者の移民ビザの取得が目前の場合は、米国訪問の目的をより綿密に尋問されます。(その様な場合、緊急事態のみ米国への訪問が許され、それ以外の場合は移民ビザを待つ様に指示される事もあります。)
- 訪問者の家族が米国市民である場合―この場合、米国当局は、旅行の目的と訪問者の母国との関係が適切に説明されない限り、訪問者にはオーバーステイをする意図があると判断をし、入国を拒否する事もあります。
ビザ免除プログラム(ESTA)とB-1/B-2ビザの重要な違い
場合によっては、訪問者の母国がビザ免除プログラム加入国であっても、B-1/B-2 ビザを使って米国に入国する方が有利かもしれません。
- ビザ免除プログラムで許可される滞在期間は90日に限られていますーB-1/B-2 ビザで米国を訪問する場合、米国当局が、訪問者が滞在期間中にビザで許されている行動規範を超えて行動する事を疑われない限りは、長期的な滞在が許可されます。
- 場合によってはB-1/B-2ビザの方が仕事の合法性が明確な事がありますーこれは、個人従業員、乗務員、および福音宣教者に特に当てはまります。これらの訪問者は、ビザ免除プログラムを通じて米国で許される仕事の範囲が明確ではありません。その為、国内で許される仕事の許容範囲が明確に示されているB-1/B-2ビザの方が、安心して米国に滞在できます。
- ビザ免除プログラムは、特定の犯罪歴または移民歴のある個人には利用できませんー不法滞在、ビザ申請の拒否、特定の国への旅行の記録などがある場合を含みます。さらに、個人に犯罪歴やオーバーステイなどの記録があるとそれが原因となってESTAを取得する事ができなくなってしまう事があります。その様な場合は、ビザの取得が必要になります。
- ビザ免除プログラムユーザーは強制送還を免れる方法が限られていますービザ免除プログラムユーザーが強制送還を免れる唯一の方法は難民申請です。しかしB-1/B-2ビザ保持者の場合は、強制送還の判断を移民裁判官に不服申し立てをする事ができます。
- 特定の英国パスポート保持者はビザ免除プログラムを使用できませんービザ免除プログラムはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、チャンネル諸島、マン島において無制限の永住権を保持する英国市民のみに利用可能です。つまり、アイルランド共和国、香港等の英国本土以外の国籍・市民権を有する英国パスポート所有者はビザ免除プログラムへの参加資格が無いのです。
著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください。