米軍人との離婚のときに検討すべきこと

Photo: Valentino Funghi at unsplash.comアメリカの首都であるワシントンD Cを拠点として活動している当事務所では、米軍人との離婚に関する問い合わせを頻繁に頂きます。今回は、米軍人との離婚に関する重要点をこちらの記事でまとめました。

当事務所ではメリーランド州、コロンビア特別区、ニューヨーク州においての家族法の相談を受け付けております。ご相談の予約はこちらのフォームから行って頂けます。

裁判書類の配達

現役の米軍人に対して訴訟を起こす場合、まず最初に問題となるのが書類配達のプロセスです。通常、民間人に離婚訴訟が起こされた場合は、保安官(Sheriff)または送達実施人によって当事者への書類配達が行われます。これは、被告が軍事基地内に居る場合は不可能になります。このような場合は、被告の直属の司令官から助けを借りないと書類の送達ができないこともあります。送達に関しての規制は、軍隊の各部門(陸軍、海軍など)によって様々異なります。

例え送達が上手くいき、被告に必要書類が届けられたとしても、現役軍人は民間人のように厳しい返答期限が定められていないので、返答を書くのにまたさらに時間がかかる可能性があります。軍人民事救済法(SCRA)のせいで、現役軍人が書類に期限以内に返答をすることを怠ったとしても、通常であればDefault Judgement(欠席裁判として原告に有利な判決下すこと)が得られるはずなのが、それを得られるまでに異常に時間がかかったり、最悪の場合はそれを得ることが不可能になることもあります。これにより、裁判の進行が多大に遅れることもあります。

このような問題を防ぐためにも、事前に婚姻後の夫婦間合意書において、配偶者からSCRAの権利の放棄をしてもらうことが良いでしょう。

親権

米軍には子供の養育費に関する規制が定められており、州法及び外国法による規制と並行して適用されます。有効な裁判所からの命令がない場合は、現役軍人は、指揮官から養育費の支払いを命じられ、それに従わなかった場合は、懲戒処分を受けることになります。

しかし、これらの命令は指揮官の裁量によって定められることがほとんどで、必ずしも厳密に執行されるとは限りません。そのため、養育費の支払いを執行するためには、指揮官ではなく、必ず州裁判所を通して養育費の支払いを命じてもらう必要があるでしょう。

年金と障害者手当との関係

ほとんどの米軍人には、退職後に確定給付年金が一定額支払われることになっています。アメリカ州法では、年金は通常夫婦間の財産として扱われるため、裁判所の命令によって、離婚後も元配偶者が一定の額を受け取ることが可能になっています。兵役中に最低10年間以上、米軍人と結婚していた配偶者には、国防総省から米軍人への公的補助の一定額の支払い命令を発行してもらうことも可能です。しかしこの場合には、特別年金命令に裁判所が署名をもらい処理手続きを行うことが必要になります。

これらの給付金は、アメリカ退役軍人省からの障害手当と併せて支払われることがよくあります。退役軍人に支払われる障害給付金は、年金とは違い、連邦法によって夫婦間の財産として認められてないため、分割の対象にはなりません。しかし、障害手当は、養育費と扶養手当の額を決める際に、個人の収入としてみなされます。また、軍人への公的補償は所得税の対象となりますが、退役軍人省から支払われる障害給付金は対象外です。

米軍人が年金と障害手当の両方を受け取る資格がある場合は、通常、障害手当を受け取るためには年金手当を減額されます。これは離婚をする際に課題となることがあります。というのも、この場合には、既に年金手当の一部の支払いを受給している元配偶者がいる場合は、元配偶者への支払い額が減る可能性があるからです。これに関して、アメリカ最高裁判所は2017年に、差額の埋め合わせを軍人に命じることはできないとの判決を下しています。

退職貯蓄制度

一部の米軍人は、いわゆるThrift Savings Plan(TSP)口座を持っています。これは、401k口座に似ている退職金貯蓄口座であり、現役軍人は将来の退職のために毎給与の一定の割合を貯金することができます。TSP口座は、通常、夫婦間の財産として裁判所からの命令によって分割することが可能です。TSP口座へは、課税が繰り延べられます。つまり、TSP口座から送金を行う場合は、送り先がIRAまたは401k口座でない限り、課税の対象となるのです。

アメリカの離婚における退職ベネフィットの分割」をご参照ください。

その他の公的補助

離婚に関しては、米軍人の健康保険、旅行、または教育給付などの手当も考慮に入れる必要があるでしょう。元配偶者は、兵役中に少なくとも20年間米軍人と結婚していれば、一定の軍事給付を受け取り続けることができ、子供は、通常離婚後も給付を受け取り続けることができます。夫婦間で和解合意書を起草する場合はこれらの問題を考慮することが望ましいでしょう。

関連記事


著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください