米国における「婚前契約書」と「婚後契約書」 

離婚は非常に厄介です。配偶者間の交渉による事前の合意がなければ、裁判所は夫婦間の財産(退職金を含む)を分割するための公平な方法を見つける必要があり、より経済的に有利な当事者は元配偶者を支援する生涯の義務を負う可能性があります。 

このプロセスをより予測可能にするために、多くの配偶者は、離婚後の財産分与と金銭的支援の扱い方について事前に合意書を作ることが多いです。これらは、結婚前に署名されれば、婚前契約書(prenuptial/antenuptial agreements)と呼ばれ、結婚後に署名されれば、婚後契約書(postnuptial agreements)と呼ばれます。婚前契約書の有効性と執行度は州ごとに異なりますが、アメリカ国内での全般的な注意事項もいくつか挙げられます。 

当事務所ではメリーランド州、バージニア州、コロンビア特別区、ニューヨーク州においての家族法の相談を受け付けております。ご相談の予約はこちらのフォームから行って頂けます。   

婚前か婚後か 

アメリカの法域では、婚前契約と婚後契約に関しての大きな違いはありません。しかし、この二つには大きな実用的な差があります。婚前契約を交渉するとき、当事者はまだ結婚しておらず、交渉がうまくいかなかった場合は、婚前契約無しで結婚するか、どうしても合意できない場合は結婚をとりやめることが可能です。一方で、婚後契約書の場合は、合意に至らなかった場合は離婚となり、経済的に弱い立場の配偶者が扶養手当と財産分与を主張できることになってしまいます。他の全ての条件が同じだとして、通常、経済的に有利な配偶者の方が婚前契約に関しての交渉力は強いですが、結婚後時間が経つにつれて、経済的に弱い配偶者の交渉力の方が強くなります。 

合意内容 

ほとんどの法域では、婚前契約は、適切に起草されてさえあれば、扶養手当と財産分与の問題を恒久的に解決することができます。ただし、メリーランド州のような一部の法域では、扶養手当契約は、変更不可能であると明示的に説明されていない限り、裁判所によって変更される場合があります。 

婚前契約は、子供の親権と養育費に関しての影響は限定的です。子供の最善の利益は常に最優先事項であると考えられているため、裁判所は、子供の監護権と支援に関する事前の親間の合意を変更する場合があります。多くの州では養育費の義務に悪影響を与える婚前契約を禁止しています。 

婚前契約はまた、連邦移民法の問題であるグリーンカードの宣誓供述書に基づくスポンサーの義務を排除することはできません。 

情報公開 

一般的に、婚前契約の各当事者は、契約が締結された時点で、相手方が自分の経済状況を完全に認識していることを確認する必要があります。コロンビア特別区や、ヴァージニア州などの一部の管轄区域では、実際の開示または知識の代わりに、自主的かつ明示的な書面による開示の放棄を認めています。一方で、メリーランド州などその他の管轄区域はそうではありません。権利放棄が認められている法域においても、契約成立に対する抗弁(および損害賠償請求の訴因)として不正行為が主張される可能性があるため、各当事者は、相手方の金銭状況について誤解を与えないように注意する必要があります。 

任意的な執行 

他のどのような契約書と同様に、婚前契約は、任意的に実行されなかった場合は無効になる可能性があります。 

一方の当事者が他方の当事者によって合意に署名するように「強制」された場合、強要または強制を理由に提起される可能性があります。そのため、将来このような問題を防ぐためには合意のタイミングが重要です。結婚直前に合意された契約は、強要や強制の兆候がないかどうか、裁判所により、より注意深く見直されることがよくあります 

さらに契約を無効にする手段として、精神的能力(無能力も引き合いに挙げられる可能性があります。たとえば、当事者が契約に署名したときに薬物またはアルコールの影響下にあった場合、これは契約を完全に無効にする可能性があります。 

婚前契約の当事者は通常それぞれで選んだ別々の弁護士を雇い交渉することが望ましいです。そうすれば、当事者には契約の内容や条件の説明が適切にされ、任意的に同意したかどうかも疑われる余地が無くなります。カリフォルニア州などの一部の区域では、弁護士の同伴無しで契約を締結したい場合は、特別な手続きが設けられており、それに従わないと契約全体が無効になることがあります。 

そのような特別な手続きが無い区域であっても、配偶者の署名の信憑性をめぐる将来の論争を避けるためにも、婚前契約の公証手続きを行うことが理想です。 

公平性と良心性 

各管轄区域には、婚前契約の必要な公平性に関する独自の基準があります。ほとんどの管轄区域では、たとえ両当事者による完全な開示と任意的な執行があったとしても、明らかに不公平な合意内容が認められる場合は裁判所によって無効とみなされる可能性があります。一部の管轄区では、さらに進んでおり、契約が有効であるためには、契約全体が平等である必要があります。 

当事務所でのサービスのご案内 

当事務所では、ニューヨーク、メリーランド、およびコロンビア特別区にお住まいのお客様に婚前契約書と婚後契約書の作成と内容の交渉を承っております。当事務所の料金は通常、お客様の望まれる契約の内容と交渉期間の長さに応じて、およそ750ドルから2500ドルの範囲となっております。 

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著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください