メリーランド州での離婚案件は郡ごとの巡回裁判所(日本でいう地方裁判所レベルにあたる)において処理されます。離婚に関する法は州ごとに大きく異なり、配偶者が別の州に住んでいる場合は特に、提起する裁判所のある州ごとに大きく結果が変わってきてしまう可能性があるため、事前に起こりうる想定結果を比較してからどこで提起するのかを決めるのが良いでしょう。
当事務所ではメリーランド州、バージニア州、コロンビア特別区、ニューヨーク州においての家族法の相談を受け付けております。ご相談の予約はこちらのフォームから行って頂けます。
法律上の要件
メリーランド州において離婚訴訟を起こすには、いずれかの当事者が継続的に少なくとも6ヶ月間州に居住しているか、離婚の原因となった行為が州内で起こったか、どちらかの条件を満たしている必要があります。これに加えて、下記の決定的な原因とみなされる「絶対条件」の少なくとも一つを満たす必要があります。
- 当事者間の合意(当事者間の問題を全て解決するための契約に両者が署名をした場合)
- 12ヶ月以上に渡る別居(12ヶ月間継続的に別々の住まいに住み、性行為を行っていない場合)
- 不貞行為
- 原告本人または原告の未成年の子供に対する虐待または悪質な行為
- 配偶者が3年の刑を伴う刑事責任を課され、既に12ヶ月以上の服役を完了している場合
- 精神異常が原因となって3年以上に渡り施設に収容されていた場合
12ヶ月未満の別居があった場合には、限定的な離婚のプロセス(子供の養育費や扶養手当の交渉など)を先に始めることができ、12ヶ月が経過したら、財産問題を全て解決して完全な離婚を要求することが可能です。
手続きの順番
協議離婚として離婚を成立させる場合は、両当事者が養育、扶養手当、または財産分与に関する全ての問題を解決することが必要です。つまり、扶養をどのように行うのか、各当事者にどれほどの金銭的責任が課されるかなどといったことに両者が完全に合意していなくてはなりません。これは通常、書面による和解契約を通して行われます。協議離婚の場合には、離婚の申請が処理されてから約1、2ヶ月後に巡回裁判所での聴聞会が行われます。養育費が問題となる場合は、当事者間で合意された額が州で定められている条件を満たしているかを証明する必要もあります。
両者が離婚における条件について合意に至らない場合の離婚プロセスは、一般的に次の通りです。
- 原告が巡回裁判所に訴状を提出します。
- 裁判所が召喚状を発行、審理の日付を設定します。(通常は45〜60日後)
- 原告は被告に対して最初の聴聞会の通知、召喚状、訴状などを送付します。
- 送付が行われた後、被告には、メリーランドで送付が受領された場合は30日間、アメリカ国内で受領された場合は60日間、アメリカ国外で受領された場合は90日間に原告への主張に同意するが反対するかの返答を行わなければなりません。
- 最初の審理では、裁判所がその後の審理の予定日と証拠開示期限を設定。当事者間の意見の不一致の範囲によっては、裁判所が裁判外紛争解決や子育てのクラスへの出席を命じることもあります。
- 当事者間で、質問書、文書、証言録取、または事実確認の要求を行います。
- この時点で合意が認められない問題点は、陪審員無しで、裁判官の前で解決されます。子供の親権争いや金銭的責任の両方において合意が得られない場合は、一般的に、2つの別々の裁判に分けられて争われます。離婚訴訟は提出から1年以内に解決されることがほとんどです。
このプロセスの途中で、当事者が合意に達した場合、訴訟は協議離婚として処理されることになります。
親権
メリーランド州では、法的な親権(意思決定権)と物理的親権(子供の保護観察を行う権利)が別々の概念としてみなされています。これは、メリーランド州には当てはまりませんが、コロンビア特別区などの一部の管轄区域では、事実を覆す証拠が無い限りデフォルトで共同親権が与えられます。つまり、単独親権を要求したい場合は、それが適切であると示す証拠を提示しなくてはなりません。
詳しくは、「米国における親権実務の基礎知識」をご参照ください。
養育費
他のほとんどの米国の管轄区域と同様に、メリーランド州には、両親の収入や子供のニーズに応じて養育費を決める際のガイドラインが設けてあります。養育費は、子供が18歳に達するまで、または高校を卒業するまで支払われます。当事者の支払い能力に変化があった場合などは、それに応じて養育費の額も変更になる場合があります。
メリーランド州のガイドラインは、一般的に、コロンビア特別区のガイドラインと似ており、同等な額になることがほとんどですが、コロンビア特別区では子供が21歳になるまで養育費を払う義務があるという相違点もあります。バージニア州のガイドラインは、一般的にメリーランド州のガイドラインよりも遥かに少ない額になることがほとんどです。
扶養手当(アリモニー)
Alimonyとは、離婚後の配偶者の支援のために必要とされる追加の経済的支援のことを言います。これは、一般的に不正行為をしている配偶者からの「罰」または「補償」として誤って認識されることが多いですが、それは間違った認識であり、通常、受け取る配偶者の経済的必要性に基づいて決められます。メリーランド州では、一般的に、扶養手当を再建的なものとみなします。つまり、受け取る配偶者が経済的自立を確立するまでの間のサポートを目的としています。配偶者が自立できないとみなされた場合、または配偶者間にあまりにも大きな収入の差が出てしまう場合は、無期限の扶養手当が課される可能性もあります。
他のほとんどの州の場合と同様に、メリーランド州には正式な扶養手当のガイドラインはありません。扶養手当は裁判官の裁量によって決定されるため、ケースバイケースであることがほとんどです。扶養手当を要求するには、現在の収入、潜在的な収入、その潜在的な収入を確保するために必要な手段、及び特別な支援が必要になる場合はその理由について説明する必要があります。ほとんどのメリーランド州の裁判官や弁護士は、メリーランド大学のカウフマンセンターが考案した扶養手当を計算するための公式を利用して、受取人の年齢、収入、教育水準、及び子供の数と年齢に基づいて、公平な扶養手当の金額と期間の計算を行います。この公式に基づくと、結婚が25年以下の場合、扶養手当の期間は通常5年から8年に制限されます。(結婚が25年以上続いていた場合は、恒久的な扶養手当義務を受け取ることが可能になります。)しかし、この公式は、ただ弁護士や裁判官に広く利用されているだけであり、法的な拘束力は持たないので、場合によっては裁判官がこの公式を使わずに扶養手当の額と期間を決定することもあります。
夫婦間の財産
離婚後、配偶者は、結婚前に獲得した、または結婚中に他人から受け取った贈り物、遺産、アイデア、または子孫として親族から遺産を受け取った場合などは、それらを個人の財産として保持することができます。その他の全ての財産は、所有権に関係無く、一般に公平に分割する必要がある夫婦間財産と見なされます。この規則は地域ごとに異なり、例えばコロンビア特別区では、法的所有権が共同であるか個人であるかをより重視する傾向があります。
夫婦間財産は、離婚紛争中(法的な離婚が成立するまで)も蓄積されますが、配偶者が結婚に貢献しなくなったとみなされる場合は、早期に蓄積期間が停止する可能性もあります。同様に、コロンビア特別区も離婚の決定時点で夫婦間財産の蓄積を停止しますが、バージニア州は別居時に夫婦間財産の蓄積を停止します。
メリーランド州では、離婚後に最大3年間まで、家族が家の使用と所有をすることを許可しています。つまり、家が売却されるか結婚財産として解決する前であれば、離婚後も配偶者は子供と一緒に同じ家に住むことができるのです。
当事務所での弁護士費用について
離婚紛争はケースごとに大きく異なります。迅速かつ簡単に解決する場合もあれば、解決するまでに多大な弁護士の努力が必要な場合もあります。
当事務所では、基本的に、訴訟が継続中の間は毎月2,000ドルの弁護士費用を見積もることをお勧めしています。未成年の子供がおり、裁判に至る以前に解決可能な金銭的問題を伴う、いわゆる典型的な離婚紛争の場合は、通常6ヶ月から8ヶ月かかり、およそ8,000から12,000ドルの出費が想定されます。しかし、もっと複雑な離婚紛争の場合は、9ヶ月から12ヶ月の間に20,000から25,000ドルかかることもあります。
一方の配偶者が弁護士費用の支払いを行うことができない場合は、もう一方の配偶者に支払い能力があると判断されるときのみ、裁判所を通して訴訟金の支払いを要求するか、弁護士費用の一部を判決後の収益から差し引いてもらうことが可能です。
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著者:ダニエル・ジョセフ(ジョー)ジョーンズ
ワシントンD.C.とニューヨークに拠点を持つジョーンズ法律事務所の代表弁護士。米国移民法、国際親族案件、国際ビジネス案件を中心に活動しています。日本の大手企業や国際法律事務所で国際法務に従事した経験があり、日本語も堪能。お気軽にご相談ください。